移植・輸血検査学の初版は2004年3月に刊行された。当時は輸血や移植を考えるうえで必要不可欠な主要組織適合性遺伝子複合体(major histocompatibility complex;MHC ヒトではhuman leukocyte antigen;HLA)を学ぶに適切な教科書・読本がなかったことからの企画・出版であったが、その後現在に至るまで、MHCを体系的に学ぶための参考書はほとんど刊行されていない。
MHCは移植(臓器移植、造血幹細胞移植)医療や輸血医療にかかわるのみならず、その著明な多様性故に遺伝学の研究対象ともなり、また自己免疫疾患のみならず、感染症やがんを含む疾患における免疫応答の個体差形成において重要な役割を果たすことから免疫学の新たな研究対象ともなっている。昨今では、iPS細胞を利用した研究も進んでいるが、その樹立や応用においてMHCは考慮すべき必要不可欠な因子となっている。
このように、移植・輸血検査学をめぐる関連領域においては学問の進歩が著しく、一般社団法人日本組織適合性学会の会員の皆様を中心とする本書の利用者より、最新知識を盛り込んだ改訂版の出版を求める声が多く届いていたことから、この度、編者・執筆陣の構成を大きく変更し、関連領域において重要な最新知見を加えるための加筆・改訂を行った。初版では教科書としての使用が主たる目的に置かれていたこともあり、学問的に確立したことを中心とする編集方針であったが、それでは時代の先端を行く学問領域の1つである移植・輸血検査学の進歩にはついて行けず、早晩色あせた知識となってしまうとの危惧感もあり、最新の確立された知見も加えるとの編集方針を立てたうえでの改訂版である。
改訂版は企画から約1年で発刊を迎えたが、初版と同じく8章構成とした。また、初版は約240頁の単色刷りの体裁であったところ、改訂版はその約1.5倍の約330頁と内容も充実し、加えて多色刷りとすることで視認性の向上を図った。さらに、執筆者・編者による検討に加えて、一般社団法人日本組織適合性学会編集広報委員会の委員による監修を行うことで、記述のわかりやすさを心がけるとともに、内容のさらなる精度向上を図ったものである。
MHC・HLAの初学者から、検査実務に携わる方々、高等教育に携わる方々、そして移植医療・輸血医療に携わる方々には、是非とも座右に置いて、少しでも疑問に思ったことがあった際には本書を開いて知識の習得や再確認を行って頂きたいと願うばかりである。
最後に、本書の企画から完成まで粘り強くご対応頂いた株式会社ぱーそん書房の山本美惠子様、近野さくら様に深謝致します。
令和6年9月吉日
編者 木村 彰方・湯沢 賢治・中島 文明・
岡崎 仁・一戸 辰夫・徳永 勝士
6 不規則抗体スクリーニングと交差適合試験
1.不規則抗体スクリーニングと交差適合試験の概要
2.生理食塩液法
3.酵素法
4.間接抗グロブリン試験
5.分子標的治療薬の対処法3
7 血小板抗原検査
1.血清学的検査法
2.遺伝子検査法
Ⅴ 移植医療
1 移植の概要
1.移植の用語
2.移植の種類
2 移植免疫
1.拒絶反応
2.拒絶反応の防御と治療
3.移植片対宿主病
3 臓器移植
1.腎移植
2.心移植
3.肝移植
4.その他の臓器移植
4 造血幹細胞移植
1.同種造血幹細胞移植の治療原理
2.移植前処置と移植片対宿主病予防
3.移植細胞ソース
4.骨髄バンクと臍帯血バンク
5.造血幹細胞移植における組織適合性
Column・HLA適合性が造血幹細胞移植後の
NK細胞免疫応答に与える影響
5 免疫療法
1.免疫療法の原理
2.能動免疫療法
3.受動免疫療法
Ⅵ 輸血医療
1 輸血の意義
2 血液製剤
1.血液製剤の種類と保存方法
2.保存液の種類と組成
3.血液製剤の供給と安全性
4.供血者の採血基準
5.法令およびガイドライン
6.血液製剤の種類と適応
7.自己血輸血
8.手術時の血液準備方法
9.アフェレーシス
3 輸血後副反応
1.溶血性輸血副反応
2.輸血感染症
3.非溶血性輸血副反応
Ⅶ HLA研究の広がり
1 ヒトゲノム多様性の概要
1.多型とは
2.遺伝子多型の種類
3.さまざまなゲノム多様性
2 HLAと疾患
1.自己免疫疾患
2.感染症
3.腫 瘍
4.その他の疾患
5.疾患とHLA遺伝子の多型に関連が見い出されるメカニズム
3 法医学への応用
1.親子鑑定と父権肯定確率
2.個人識別
4 集団遺伝学との関連
1.血液型頻度の集団差
2.HLA 型頻度の集団差と人類集団の類縁性
5 HLAの医学応用の将来
1.腫瘍免疫とがん免疫療法
2.ゲノム医学の将来
Ⅷ 移殖・輸血検査学実習
1 HLA遺伝子検査
1.DNA抽出
2.PCR増幅
3.PCR-SSP法
4.蛍光ビーズ法
5.PCR-SBT法
6.NGS法
2 抗HLA抗体検査
1.リンパ球細胞傷害試験
2.フローサイトメトリー法
3.蛍光ビーズ法
3 輸血検査
1.ABO血液型検査
2.ABO血液型亜型検査
3.RhD血液型検査
4.不規則抗体スクリーニングおよび同定検査
5.交差適合試験
4 抗血小板抗体検査
1.混合受身赤血球凝集法(MPHA法)